
数時間のドライブ後、打ち上げ予定地点に我々はいた。
深夜2時頃だっただろうか。周辺は真っ暗な中、道路に設置されている電光掲示板だけが光っていた。そこには警報が表示されている。それは大雨警報だった。一般的に考えると最悪のコンディションである。が、我々は試練がやってきたー!と喜ぶのである。やはりオカシナな集団だ。(笑)
身に降りかかる問題や障害を喜ぶのである。
とは言っても現実問題、風船ロケットは風が強すぎては失敗に終わる。ならば天候を変えるしかない。この後2時間後、早朝4時が打ち上げ予定時刻だ。この2時間で天候を変えよう!と皆強く強く願った。
手分けして打ち上げ準備に取り掛かる。
電子機器の動作確認をしようとした所、変態から大きな声があがった。「問題発生しました!」撮影用のカメラを充電していたにも関わらずバッテリーがなくなっていた。移動中何かの加減で電気を消費していたのだろう。しかし慌てることなく、そんなこともあろうかと予備バッテリーへの切り替え対応する。様々なケースを想定し準備をしてきたので直ぐさま対応できたが、内心は宇宙という未知な空間である。準備をしてきたとは言え一抹の不安を抱えた。予備バッテリーからの電源供給が飛行中持つのかどうか。そして、すべての電子機器の動作確認をすませ密閉作業に移る。
その頃、車外では風船を膨らます作業も同時に行われていた。2m50cmに膨らます。当たり前だが、今までやったことがない。ワクワクしながら膨らます。子供がはしゃいでるようだ。だが、準備してきたガスが足りるのか?計算上は大丈夫なはずだが、あまりの風船の大きさに充填途中不安になる。まだ夜が明けていない暗闇の中、大の大人が巨大な風船を膨らますのである。何も知らない人からみると奇怪な光景で怪しい極まりないのである。もちろん誰もいるはずがない早朝だったが。30分ほど費やしただろうか、ちゃんと規定の大きさに膨らますことができた。
その時、雨はかなり小降りになっていた。
昔、風船おじさんというのがニュースで流れたが、まさに人間1人なら飛んでいきそうな浮力だった。
(言い過ぎた。。。)
機体をパラシュートと風船につなぎ準備完了。APOLLO29の完成だ!時刻は3時45分くらいだったと思う。予定通りのクルーワークだった。みんな初めての作業というのに、何回か経験をしたことのある手早さだった。
そして、早朝4時、その時の風の方向を読み、電線や障害物など干渉しない場所へ風船ロケットを握りしめ徒歩にて100mほど移動した。プロジェクトリーダーと製作者変態の二人で風船ロケットを握っていたが、その時の感触というか感覚というか鮮明に覚えている。いよいよだ!という心臓ドキドキ、果てしないロマンへの期待、失敗は考えたくないが保証がある訳ではない。不安も心の片隅にあった。だがその不安もよそに風船ロケットは「俺は宇宙に行くんだ!」と言わんばかりに、その強い浮力から飛びたがっている意志を感じた。
打ち上げポイントをボスが決める。
ここだ!!!
時刻は4時。この頃には雨も風も止んでいた。我々の想いの総力によって天候も変えることができた。
いよいよ!打ち上げカウントダウンを始める。
10、9,8,7,6,5,4・・・・
3・・・
2・・
1
その瞬間、プロジェクトリーダーの手から風船ロケットは放たれた。(続く)