
打ち上げ決行日は8月11日前後と決定。なぜなら、1年中で夏が一番ジェット気流の活動が穏やかという事と皆の仕事の休みが取れる日程はここだけだったからだ。
そして、打ち上げ場所は北海道の阿寒湖付近となった。理由は日本で一番人口密度の低い場所だから。この付近なら風に流されても落下する場所は殆どが牧草地である。風船ロケットなので一旦打ち上げて我々の手から離れれば、あとは気象に任すしかない、コントロールすることは出来ない。何がお起こるかわからないので万が一に備え打ち上げ場所の選定にもかなりの力を入れた。
打ち上げ場所の選定に役にたつサイトがあった。チームの中には、これまた検索が異常に得意というか、人並み外れた検索の仕方というか、そんなメンバーもいた。彼はどこから見つけたのか、軍事用につかうのではないか?!というくらい(詳細は忘れたがかなり精度の高そうなシュミレータ)の上空気象情報がリアルタイムに反映されたシュミレーターを見つけてきた。
そのシュミレータのお陰もあり、北海道の阿寒湖付近が、打ち上げ後の気流に流せれることも含めベストな場所だろうと決定した。
そして、北海道への移動は、これまた普通では考えられない移動手段で阿寒湖へ向かった。
打ち上げの日が近づくも、まだまだやらなければならない作業が山盛りだ。
例えば、
「航空法に抵触しないこと」
「管制局への申請と承認を得る」
航空法に抵触しないとは、電波の問題である。飛行機に乗った時に機内モードにするようにiPhoneなどの電波は使用してはいけないのである。ということは、打ち上げ後、機体がどこを飛んでいるのかを知るためにはGPSに頼り位置情報を得たいのだが、iPhoneを使用することはできない。なんらかの方法で機体の有りかを特定できなければ、まず回収は無理である。
どうするか????
そこでまた、違う特殊技能の持ち主がいた!
無線をクレイジーに研究しているマニアがメンバーにいた。彼の構想では打ち上げる機体に無線機を積み、それが発する電波を解析して機体の位置を割り出そうというものだ。しかし、これもパーフェクトではない。地上から飛行機が飛ぶくらいの高度までしか電波を拾うことができないのである。
通常打ち上げから回収まで2時間~3時間程度。地上から雲を越えて宇宙に到達して、その逆をたどり地上に戻ってくる。雲より上空は無線電波を拾うことができない。なので、帰還時電波を拾える高度には限界がある。時間は数分しかない。その間に適切な場所に移動し電波から位置情報を割り出し、目視で確かめ、キャッチしなければならないのである。まったくもってして未知数な世界である。
そんな状況に無線クレイジーマニアは腕が鳴る。見たことのないような電波キャッチ用のアンテナを密かに開発していた。そしてそれらのシステムは地上での通信においては問題がないことを確認した。
あともう一つの課題が残されている。管制局への届け出だ。これも結構ハードルが高かった。考えれば分かることだが、風船ロケットを打ち上げる。その時にもし飛行機が通過して接触しようものなら大事故だ。例え風船であってもトンデモナイ(飛んでいるが)ことになる。
そのためには、いつ、どこを、どのような状態、で物体が飛行するかを明確にして申請しなければならない。
理屈はそうであるが、実際には天候により打ち上げ場所や時間の変更は充分に有り得る。ましてや風に流されるので、当日その状況にならないと正確な飛行ルートは分からないのである。しかし、大きな変更がないようにシミュレートし、theネゴシエーターの異名を持つメンバーがその交渉にあたる。
交渉は大変だったにも関わらず「楽勝!」と言ってちゃんと承認を得た。流石のネゴシエーターである。(続く)