失敗からは何も得られない

見つからなかったということは、今頃宇宙に行ってるのかも!と我々は期待した。

正確な時間は覚えていないが、打ち上げ直後電波が途絶えた。

2通りの可能性があった。一つは宇宙に順調に向かっているために電波が届かなくなった。もう一つはどこかに落下し、その衝撃で無線機が壊れたか。

いろいろな可能性を考えたが、なんらかの位置情報がない限り、具体的行動に移せない。待つしかなかった。

打ち上げから2時間くらい経った頃だったろうか。新しい位置情報が届いた。今度は打ち上げポイントよりもはるか数十キロ離れた場所だ。ということは飛んでいたのか?!!!回収班はその情報を手がかりに予想地点へ向かった。

当初の予定では早朝4時に打ち上げ、6時~7時くらいには地上へ戻ってくる。上手くいけば午前中にすべてを回収し、成功を祝う計画であった。もし回収に手こずったとしても日が落ちるまでに回収しなければならない。時間は限られていた。

回収班は、その位置情報と風による影響、計測の誤差などを考えて範囲を拡げて捜索にあたった。その後APOLLO29から送られてくるデータを見ると位置が更新されている。

やはり、順調に飛んでいるのか?

でも相変わらずその位置情報は「ここ!」と示してくれるものではなかった。捜索をするにもいくつかの候補があり、しかも広範囲である。もはや町内を探す広さのレベルではない、直径10kmくらいの範囲を探す規模である。さらに1つではなく可能性はいくつかある。。。

しかし、我々は諦めない。

諦め=失敗 

我々の人生に失敗は許されない。

ただ一つたりとも。

ボスはいつも「失敗から得られるものはない。成功からしか得られないのだ。」と言っている。我々はその言葉を何度か聞いて理解はしていたつもりだったが、まだ実感として持てているクルーは少なかった。

回収班は血眼になって可能性のある箇所、というより大地だ。広大な大地を探し回った。

打ち上げ班は、打ち上げ後すぐに回収予想地点に向かう予定であったが、前述のようにAPOLLO29の位置情報がはっきりしなかったので、打ち上げた場所にベースキャンプを張っていた。そこにはボスもいた。そして、ボスがよし!と言わんばかりに言葉を発した。

「セスナ飛ばそ!」

そして、もうワンフレーズ続いた。

「金でなんとかなるなら、金で解決させる!」

ここはちゃんと説明が必要なところである。一般的にはお金で物事を解決することは悪いというイメージを持っている人が多いのではなかろうか。ここで言いたいのは、成功に対する考え方だ。どんな方法を使ってでも成功させなければならないのだ。人生に失敗グセをつけてはいけないのである。一度でも失敗するとその後の成長に著しく影響を与える。成功した自分で次のことに取り組む方ができることの質や大きさが圧倒的に違うのである。だからこそ、成功にこだわるのである。

そして、お金があるならそれで解決した方が圧倒的に速く次のステップに進めるのだ。それを人生という時間の尺度に置き換えると、やり遂げる成功の数が圧倒的に変わるのである。そして、それは比例直線で上がるのではなく、2乗曲線もしくはそれ以上の上向き曲線を描くことを我々は知っている。

そこまでして成功に拘らなければならない。

ボスといると刺激的だ。

で、ボスがこの言葉を発した次の瞬間、クルーの中の一人、裏隊長と呼ばれていた人物はもうスマホで電話をしている。そう、セスナを飛ばしてくれる会社にかけあっているのだ。寿司屋を探す時もそうだったが、なんて速い行動だ。大半のクルーはボスの一言に感動し、何がなんでもやり始めたことは必ず成功させるという執念というか、生き方というかその迫力に心をときめかせていた。一見、良い話のように聞こえるが、ときめかしているようでは駄目なのである。裏隊長のように次の行動に出ていなければならないのである。

ここでも2つのことを学んだ。

絶対に成功させること

スピード感

この意味と重要性が腑に落ちた。

言葉にするとなんだかチンケに聞こえる。世間で言っているそれとは全く意味するものも次元も違うからだ。

そして、裏隊長は電話で、なぜセスナを飛ばしたいのかを的確に伝え、交渉を進めていく。しかし天候が思わしくなくその日と次の日は飛ばすことが出来ないとの回答。しかし我々のやっていることにタイムリミットがあることを様々な切り口から普通の会話の中で無理を言わずに無理を押し付ける会話術を目の当たりにした。結論としては、セスナもヘリも天候とパイロットの関係で飛ばすことができなかった。

一方、回収班は全力で捜索にあたっていた。